女王の密戯
殺害されたのは新進気鋭の若手女優、川幡梨花子。ホワイトボードに貼られた写真は宣伝材料のものか、輝かしい程の笑みを浮かべたものだ。
切れ長の瞳は大きく、鼻は日本人離れしているほどに高い。写真なので実際はどうかわからないが肌の色は陶器のように白い。今時珍しく黒髪をした一言で美人と表せる女だ。

茶田は配られた捜査資料に視線を落とし、驚いた。
川幡梨花子は今、「花鳥風月」という映画で脇役にキャステイングされていた、と記されているのだ。そしてその映画の主演は米澤紅華。

前回殺された大城はこの映画のアルバイトスタッフ、そして川幡梨花子は出演者。そして遺体発見現場は同じ市内。これが別々の殺人事件だったとしてこんな偶然はあるものだろうか。
いや、その可能性は限りなくゼロに近い。

茶田は川幡梨花子の経歴と顔写真を何度も交互に見比べた。
死因は刃物で刺されたことによる失血性ショック死。凶器は刃渡り十センチ程度で刺し傷から見てカッターナイフによるものと思われる。刺されたのは丁度胃がある辺りで内蔵には届いていない。

「カッターナイフで刺したくらいで死にますか?」

係長の説明を遮り、生野が挙手もせずに質問を投げ掛けた。そのことに女性管理官の眉がぴくりと歪む。それでも生野は物怖じした様子もなく、ただ答えを待っているようだ。

確かにカッターナイフのような薄い刃物で刺したくらいで人が死ぬとは思えない。そこから大量の出血があることもないだろう。例えばそれが刺されたのが心臓の辺りで、それこそ刃が心臓に達てしていたというのなら話は別だが。


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