女王の密戯
珍しく天気予報が当たったようで途端に冬のような冷え込みはなくなった。それでもまだ風は幾分冷たく、時折悪寒のようなものが背筋を走る。

「風邪じゃないっすよね?」

茶田が寒がる仕草をすると三浦がすかさずそう口にした。茶田はそれに対しまさか、とだけ答えながら辺りを見た。

撮影所の周りには数多くの報道陣が武連を成している。それもそのはず、殺されたのは大城のような一般人ではなく女優なのだから。

マスコミが騒ぎ立てたい気持ちもわからなくはないが、茶田達警察からしたら捜査の邪魔以外なにものでもない。このぶんだと、此処だけではなく、遺体発見現場にもこれと同じような光景があるのだろう。

茶田はそちらの担当になっている生野を気の毒に思いながら小さく息を吐いた。

いざ出陣。

そう心に言いながら一歩を踏み出す。

実際、マスコミにはいい思い出はない。息子が殺された事件は他にも被害者が三人程いて、立て続けに幼児が殺されるという残忍な事件は世間を賑わわせていた。そしてそれらの報道はこどもを殺害された親を労るものではなく、事件そのものにスポットライトを当てたものだった。

テレビにも週刊誌にも何度も顔写真を出された。連日のように何々の専門家だという人間が犯人像を口にした。
犯人は幼少期に何らかの出来事があり、それがトラウマとなってこのような事件を起こしただ、これは世間に対する報復だとか、実際わかりもしないことを述べていた。

捜査に参加出来ず、挙げ句暫く仕事を休むようにとまで取り計らわれた茶田は狭いホテルの一室でそんなテレビ番組を眺めていた。


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