女王の密戯
優輝が殺されたこと自体信じられなかったし、信じたくなかった。出来れば現実逃避をし、己の殻に閉じ籠ってしまいたかった。自分の手で、足で捜査が出来ないのなら尚のこと。

それでもテレビも週刊誌も新聞もそれすら許してくれなかった。
見たくもない現実をただただ突き付けてきた。

終いには「警察官のこどもを殺すことに意味があった」などとまで言い始めたのだ。
優輝は自分が警察官であるが為に殺されたとでもいうのか。
茶田はテレビ画面の中でほざくとある専門家に向かってリモコンを投げ付けた。優輝に殺される理由なんて何もない。自分のせいで優輝が殺されたというのか。
茶田は叫び声をあげながら、手元にあるものを全てテレビに向かって投げ付けていた。

そしてそんな茶田に、家に押し掛けるマスコミに疲れ果てた妻を思いやる余裕など少しもなかったのだ。

「茶田さん?」

三浦の問い掛けに茶田は意識を現実に戻した。
もう過去のことを思い出すのはやめよう。何度もそう思った。何度も誓った。
それでも忘れることも、思い出さないなどということも出来なかった。

「やっぱり具合悪いですか?」

三浦が心配そうに眉を下げて訊いてきた。

「いや、大丈夫だ」

茶田は自分に言い聞かせるように言いながら再び足を前に出した。








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