女王の密戯
撮影所は事件が起きた直後にも関わらず正常に機能しているように見えた。今回殺されたのはいちスタッフではなく女優だというのに。それでも少しは慌てた様子は見受けられ、監督である中里は何度も怒鳴り声を上げている。

「梨花子ちゃんの出ていたシーンを代役で撮り直さなきゃならないから監督苛立ってるんですよ」

茶田達にそう教えてくれたのは俳優の和田だった。茶田達のような素人にはそのことの真の大変さはわからず、ただそれは大変なのだろうなとしか思えなかった。

「俳優や女優の中には一度いい芝居をすると、二度と同じ演技は出来ない、てタイプもいますからね。そうするとどうしても前に較べて見劣りするシーンになってしまうんですよ」

語り口調からしてどうやら和田はそのタイプの俳優ではないらしい。

「川幡さんの代役は誰が?」

訊いたところで女優の名前なんて殆ど知らないので無意味なのだが、捜査上知る必要はある。

「ああ、紅華さんの付き人をしていた子ですよ。武宮公佳ちゃん」

「付き人が?」

茶田は和田の口から出た名前に驚いた。付き人が女優の代わりなど出来るものなのだろうか。

「ええ。付き人っていうのは、大体女優や俳優の卵ですからね。同じ事務所の新人が勉強や監督とかへの顔見せで付いてるんですよ」

ならその役割はマネージャーと呼ばれるものとは別ということか。だから紅華は公佳に対してあのような態度であったということだろうか。

「紅華さん、マネージャーが現場に出入りするの嫌がるんで、いつも公佳ちゃんだけか付いてきてたんですよ」

そう言われれば紅華のマネージャーらしき人物を見たことはない。紅華の隣にはいつも公佳が立っている。



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