女王の密戯
「武宮さんが代役になった経緯をご存知ですか？」

撮影を急ぐのはわかるが、そうも簡単に代役を立てたりすることが可能なのか茶田にはわからないがどうにも早い気がしたのだ。

「紅華さんが、彼女なら出来るって。普通なら、幾ら脇役とはいえ、それなりに大切な役だから即席でもオーディションをしたりするんですけどね。中里監督は芝居に拘る人ですから特に。それに公佳ちゃん、女優の卵とはいえ、ドラマとかに出た経験も皆無みたいですし。それでも紅華さんの推しがあるなら、て試しに梨花子ちゃんの台詞を言わせてみたらこれが梨花子ちゃんより良くて。それで監督も気に入ったんですよ」

和田は口が軽いのか、それともこんなことは殺人事件には関係ないと思っているのかぺらぺらと喋ってくれた。茶田はそれを聞きながらとうにもきな臭いものを感じずにはいられなかった。
恐らく、少し離れた先に立つ真紅の着物を纏った可愛らしい女性が公佳なのだろう。だが彼女は昨日まで見ていた彼女とはまるで別人だ。

よく言えば素朴、悪く言えば何処か田舎臭さのあった彼女は何処にもいない。背筋をぴんと伸ばし、美しく化粧を施された公佳は写真の中の梨花子に負けず劣らず綺麗だ。
顔のパーツが真ん中に凝縮されたような造りではあるがそれがまた個性を生んでいる。美しさの中に個性があるというのはこういった仕事をする者にとって強みとなるだろう。

「化けるものですね」

隣にいた三浦が驚愕したような声を上げた。化けた、なんてものではない。元々見栄えするものがあるなら何故あんなに地味な格好をしていたのか。そしてそれは女優を目指すならマイナスでしかないだろう。あんな格好をしていては誰の目にも止まらない。


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