女王の密戯
「あれ? そういえば三浦さんは?」

由依はいつも茶田の隣にある姿がないことに漸く気付いたらしく、視線をきょろきょろと動かした。目自体はさして大きくないが黒目は大きいので極端に動いているようには見えない。

「コーヒー買いに行かせた」

茶田は答えると由依はあたしも欲しい、と凍えるような仕草をして言う。由依は元々色白だが、今は寒さで更に白く見え、その色はまるでアンティークドールのようだ。

「お待たせしました」

三浦が息を弾ませ、茶田に近寄ってくる。八王子署内の自動販売機に茶田が好むコーヒーはなく、通りを挟んで更に二分程は歩かなくてはならないコンビニまで買いに行かせたのだ。よく周りを見れば幾つか自動販売機はあるのだがそれは後から気付いたことだった。

「あれ、愛宕さん」

三浦は二つの缶コーヒーをポケットから取り出しながら由依の名を呼んだ。三浦は手の皮膚が薄いのかハンカチに包まないと温まった缶を持てないようでいつもホットの缶飲料を飲むときはそれにハンカチを巻いて持っている。
その仕草は女々しく、出来れば隣ではやって欲しくないと茶田は常々思っていた。

「あたしも捜査に参加します」

由依が可愛らしく首を傾げると三浦はそれだけで頬を赤く染めた。
由依は何も特別整った顔立ちでもないし、見ようによっては可愛く見えるが美人でもない。それに背も小さいし、その体型に大した凹凸もない。
小柄で細身だがフレアスカートから伸びた脚は上半身から較べると少しばかり太い。

それでも三浦はそんな由依に想いを寄せているらしく、由依が微笑みかけるといつもこうして顔を赤くする。それを見ながら茶田はいうも三浦ならもっといい女を選びたい放題遊べるのに、と思っていた。

しかし由依はそんな三浦の気持ちには微塵も気付いていないらしく、三浦の目の前で茶田を食事に誘うし、今に至っては細い腕を絡ませてくる始末だ。


< 7 / 70 >

この作品をシェア

pagetop