厄介な好奇心
「え、階段から落ちて倒れていたんですか?」 

「ええ、そんな風に聞いてますけど。ただ幸いにも頭の軽い打撲だけでちょっとした脳震盪だと先生は診断されています」 

 先生って、あのおっちゃんか。僕はその診断に半信半疑を感じたが、まあ、それはどうでも良いだろう。現に今、身体には全く持って異常を感じない。少しだけ頭が痛いことを除けばだが。

「あ、そう言えば、意識が戻ったら警察の方がみえると思いますよ。連絡するように昨夜言われたという事ですから」

 じゃあ、ちょっと連絡入れてきますね。そう言って女性が出ていくと、僕は部屋に一人だけとなった。 
 
 僕は昨夜の事を振り返ってみた。週末の金曜日、定時で上がるという同僚の飲みの誘いを断って一時間半ほどの残業をし、八時前には会社を出た。ここまでは間違いないな。途中、コンビニに寄って晩飯と缶ビール、それと少しばかりのツマミを買った。その袋を片手にいつもの帰宅道である橋を渡って階段へと向かい、そこで転がり落ちて気を失った。 

 転がり落ちた?何故? 
 そうだよ、そこなんだよ。普通、転がり落ちるなら、その瞬間の意識というか記憶というか、そんなもんがあるはずだ。なのに、記憶の風景は、橋を渡って階段に向かう途中で途切れてしまっている。
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