瞳の向こうへ
座るとやっぱり落ち着くなあ。

あらためて周りを見渡すとやっぱり何にもないなあ。

「翔甲子園行けるんですか?」

「翔君のことまで?」

「全部聞きました。一応自称翔の彼女ですから。自称ですよ」

照れくさそうに微笑んでくれる加奈子ちゃん。

「もう一度戻って来ますよ」

「……そうですか」

「どうかした?」

加奈子ちゃんは寄せ書きをしばらくじっと見つめた後意を決したかのように私の方に勢いよく振り向いた。

「先生にお願いがあるんですが」

「何でしょう」

「あの……、相良葵さんと一度お話したいんです」

加奈子ちゃんの大胆なお願いに言葉を失う。

加奈子ちゃんは私の手をまた握った。

今度は強く。

そして、何か覚悟を持った眼差しで。
< 132 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop