瞳の向こうへ
気が早い潤子先生はもう未来の私を想像しているみたい。


潤子先生……去年のこと忘れたとは言わせませんよ。


私が前日から高熱と下痢気味だったのを。


「えーと、今日のメインはこれだったし、時間も中途半端だから帰ろうか」


「帰りたいのは帰りたいんですけど……」


急に真緒がそわそわし始めた。


「どした?」


「あのですね。クラスの女子が今日手話教えてくれって」


「やったじゃない!有名人。あの体育館で見せた甲斐あったね」


「真緒、あなたが教えてやりな」


「葵さん?」


「あなたにも出来るでしょう。彼女らが本気なら私が出ます」


かなり冷めた感じで真緒に言ってしまった。


誰よりも喜ばないといけないのは誰よりもわかっているはずなのに……。


「真緒さん、これも経験。どんな事情であれ真心込めて教えなさい。もう待ってると思うから行きなさい」


さすが潤子先生。ナイスフォロー。


真緒はわかってないみたいだけど、さすが大人の女性です。


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