瞳の向こうへ
『もう先生も相変わらずですねえ。さてと、今から真面目な話をしますよ。彼はどうしてます?』


「フツーの高校生活を過ごしてますよ」


『野球部は?』


「入部しました。将来のエースです」


『コミュニケーションはとれてるの?』


「手話同好会会長が野球部キャプテンに必要最低限なことをレクチャーしてます」


仕事柄仕方のないことなんだけど、この質問攻めが意外と緊張するんだよね。


なんだか犯罪者みたいな感覚に陥ってしまうのは私だけだろうか?


『なるほど。キャプテンにね……。あ!ごめんなさいね。そっちばっか質問させて。次はこっちからね。え〜、彼女が一週間前意識を取り戻しました』


「そうなの?もう厳しいかと思ってたのに」


『ええ。みんな奇跡って言ってる。今のところ記憶障害もなく自分の名前言えてるし、両親のことも友達のことも覚えてる。彼のこともね……』


「もう伝えたの?」


『伝えたみたい。当たり障りのない理由を考えて』


「彼女の反応は?」


『笑顔だった』


笑顔だった……。


これはどういう……。

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