神隠しの杜
――血の気が引いた。



綺麗な唄だが、闇の中で聞こえるその唄は不気味で、不安と恐怖を煽り平常心を壊すのに十分だった。



唄の意味がよくわからないものの、ただ一つわかるのは――



それが“神隠し”を唄っているって事だけ。



逃げたくてもどこへ逃げたらいいか、わからなければ、足もまともに動いてくれそうにない。彼岸花だった頃は、地に根を生やし動かないのがあたりまえだっただけに人である今は、まだ自分の思い通りには動かせなかった。



闇を凝視したところで姿は見えない。



焦りだけが加速する。



足音が聞こえない。



「…………ま、まさか神隠しが?」



あの村に現れた神隠しの可能性が高く、彼岸花は息をのむ。しょせん自分はただの彼岸花に過ぎない。



鼓動が早くなる。もう、遅いと彼岸花が覚悟を決め瞳を固く閉じた。



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