神隠しの杜
現れたのは、ひどくこの場に不釣り合いな少女で、彼岸花は呆気に取られた。



白と黒を基調にした浴衣に薔薇が散りばめられ帯の飾りも大輪の薔薇で、袖や帯にもレースがあしらわれている。



持っていたコンビニ袋から取り出したのは、丸いこんがりとしたきつね色のもの。



彼岸花が初めて見るものに戸惑っていると、少女は笑う。



「しょうゆ味のおせんべいって、夏に食べるのが美味だよねぇ。夏のお供はしょうゆ味のせんべいと冷たい緑茶が一番――ってわけで、緑茶もどうぞ。あ、花火もあるよ!あとでやる?」

「あ、ありがとう……」



どうやら丸いものと緑の液体は食べ物らしい。彼岸花は、少女から受け取り暗い闇の中石段に腰かけ並んでせんべいを食べる。



奇妙な光景だった。



会話をしようにも何から話したらいいのかわからず、黙々とせんべいを頬張る。せんべいを先に食べ終わった少女がペットボトルの緑茶を一口飲み、それから名前を教えてくれた。



「熊野明日香。夢を見たんだぁ、だから、ここに君がいる事もわかってたんだよ〜」

「夢……?」

「うん。私が見た夢はねぇ、現実になるの。世間で言えば、正夢」

「正夢……」

「私ねぇ、神隠しのなり損ないなの。だからね、中途半端な力しか持たなくてすぐ捨てられちゃった。神隠しとはお友達だったんだぁ」



彼岸花は言葉を失う。あどけなく笑う目の前の少女が話す内容に、頭がついていかない。



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