神隠しの杜
「もう起きられるはずだ。この空間に馴染めるようにしたから、ほとんど元の常態に近いはずだ」



 緋葉が言った通りだった。さっきの原因不明の不調が嘘のように治っている。頭の中の靄も晴れて、体も軽い。不可思議な事態に戸惑いつつ辺りを見回す。


 歩は小さな、違和感を感じた。だがそれはすぐにわかった。



「……ああ、これのせいか」

――自分をこんな風に遭わせたであろう、ナニカ。



 夕闇に佇むお社。

 お社の屋根の上には、夕闇を背に緋葉と夕羅がいた。



 緋葉は濡羽色の短髪の少年だった。臙脂の着物がよく似合う、きりりとした顔立ちの女受けしそうな顔だった。


 夕羅は日本人形を思わせる、独特の美しさがある少女――華やかな帯の着物には、手鞠と牡丹の花があしらわれている。



「……ありがとうございます」



 歩から思わぬ言葉を受けて、緋葉は心底驚いた顔をしたが、それはほんの一瞬の事だった。



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