神隠しの杜
兄と会ったのは後にも先にもたった一度だけ。母が兄との接触を嫌がり、ずっと会わせてもらえなかった。



夕羅が唯一ヒトの中で好きなヒト。



手のひらにある椿の花が、地面に落下する。



「大好きな兄様……約束の花を持って、今いくわ……許されるのなら兄様と一緒に暮らしたい。神隠しとなっても、兄様はわたしを拒絶したりなんかしない……絶対に」



一陣の風が椿の花を揺らす。その様子は、どこか哀しげでまるでこれから先を予期しているかのようだった。



夕羅は再び夕人と会うために、ヒトの望みをのんだ。



すべてが、成るべくとして成り、起こるべくとして起こった――悲劇の一端、連鎖の始まり。



“神隠し”はヒトの起こした悲劇。



悲劇が何故起こるのか。



それは、ヒトがみる決して届かない夢を、望み手を伸ばすから…………






悪夢の幕開けだった。






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