神隠しの杜
病院は都会ではなく、山の中にある病院。都会の病院は環境がそんなによくないから、と母が選んだのは世間でも名の知れたところだった。



夕羅は母がたんすの引き出しに病院のパンフレットをしまっていたのをこっそり盗み見していて、持ち出すのは簡単だった。お金とパンフレットを持ち出し、気づかれないように家を飛び出す。



まともに外を歩いた事がない夕羅は、少し歩くだけで息切れをし途中何度も足を止めた。



「はあはあ。大丈夫……兄様に会えば、きっと全部がうまくいくもの……」



普通の日常。



普通の生活。



普通の家族。



普通の幸せ。



誰もがあたりまえのように望む“形”が手に入る。



夕羅は薄笑いを浮かべた。






「大丈夫……兄様なら、わかってくれる。血の繋がった、たった一人の兄様なら……」






藁(わら)にもすがるような思いだった。






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