神隠しの杜
夕羅は別に特別な女の子なんかじゃない。ただ複雑な環境に生まれ、両親に疎まれただけの事。たまたま、そこに生を受けただけの話。



自分の中では特別な事ではなかったものの、世間が、近所が、どんな風に捉えてるかは知らない。



と言うか、興味がなかった。



興味を持ったところで一体何の意味があるのか。極端な話をすれば、“ヒト”に興味がない。夕羅の中で、“ヒト”は無価値だった。



何とか探していたバス停にたどり着くと、近くに小さな花屋があった。



黒で統一された店の手前にある看板に、こう書かれている。



“後戻りは決してできません。覚悟がある方のみ、お入りください。――花屋神隠し店主より忠告”



「兄様に約束の花買わなきゃいけないし、忠告なんて脅しだわきっと」



いちいち本気にしてたら身なんか持たないし、第一本気にするものなんているはずがない。



夕羅は躊躇う事なく足を踏み入れた――――



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