神隠しの杜
 隼政はふと思った。管理人のプロフィールくらいはあるだろうと。自己紹介は常識中の常識だ。



「プロフくらいはあるよな?」

「まあ、あるにはあるんだけど……ハンドルネームと意味深な言葉しかないんだよね」

「男か女かもわからないのかよ? ……で、ハンネと意味深な言葉って?」



 雪芭は近くにある緑茶のペットボルを手に取り、一口飲む。



「ハンドルネームは、彼岸花。意味深な言葉は“神隠しは終わらない”―――」




 再び沈黙がおりた時、隼政はぎょっとする。



 栗色のボブに肩だしの長袖のTシャツ、短パンの水露(みつゆ)が、勝手に隼政の部屋に入って来た。



 季節感を特に気にしない水露は、常に世間とはずれた格好をしている。去年の夏なんか、羊みたいにもこもこのカーディガンに冷え性対策の靴下。隼政がちょっとからかっただけで、見事にみぞおちストレート、ノックダウン。

 その水露だ、しかもすでにもう不機嫌。


「はや、いい加減頼んだ雑誌買いに行きなさいよ!!!」



 受話器越しに叫んだ声が伝わり、思わず雪芭は離し顔をしかめた。


 隼政も負けじと言い返す。


「水露姉が買いに行けばいいだろ、大体彼氏いるんだから彼氏に頼めよなっ」



 密かに雪芭はため息をついた。隼政の両親は離婚していて、姉の水露とその彼氏真冬(まふゆ)と一緒に住んでいる。よくこの姉と弟はケンカをし、仲裁に入るのが真冬だ。本当によくできている、構図だ。



 ケンカは日常茶飯事と聞いている。実際にこの目で見ているから今さら驚きもせず、雪芭は言い合いが終わるまで携帯をいじって待つ事にした。



 相変わらず騒がしい姉弟である。


< 20 / 164 >

この作品をシェア

pagetop