神隠しの杜
電話口で隼政は名前を呼び続けていたが、いくら呼びかけても何の反応も返ってこない。こんな事は初めてだった。それがより一層切迫感を感じさせ、苛々を隠せないでいた。
こんな時こそ冷静に物事を見極めなければならないが、今の隼政は焦りでそれどころではない。慌てて隼政が家を飛び出そうとした時だった、呼び止められたのは。
「なんだよ! こっちは急いでるってのにっ」
「――隼。僕も同行していいかい」
「真冬……」
いつ仕事先から帰ったのか。まったく気づかなかったが、スーツ姿の水露の彼氏が立っていた。
深緑の眼鏡をかけた細身の青年は、今流行りの草食系男子にしか見えない。今風の若者の身なりだが、落ち着いた雰囲気の好青年っていう印象だ。
「仕事早めに切り上げてきたんだ」
「いいのかよそれ。用事があるわけじゃないんだろ?」
「僕の勘が告げててね。――今宵、何かが起こると。仕事は大丈夫だよ、僕の優秀な後輩がいるからね」
「何かってなんだよ」
「僕にもそれはわからない。それより、急がないとだろう」
「おい真冬! お前行き先わかってんのか!?」
自分より先に家を出ていった真冬を慌てて追いかける。隼政からしたら意外だった。まさか真冬まで一緒だとは夢にも思わないだろう。しかも不穏な発言まで飛び出して、正直もう何がどうなってるのか理解不能である。
――早く。一刻でも早くいかないと……!
隼政の額に汗が滲む。外気の冷たさが肌に刺さる。でも足を止めるわけにはいかない――隣で走る真冬は涼しい顔で走っている。先程まで仕事をして、帰ってきた人間とは思えない。
――意味わかんねぇ!!
こんな時こそ冷静に物事を見極めなければならないが、今の隼政は焦りでそれどころではない。慌てて隼政が家を飛び出そうとした時だった、呼び止められたのは。
「なんだよ! こっちは急いでるってのにっ」
「――隼。僕も同行していいかい」
「真冬……」
いつ仕事先から帰ったのか。まったく気づかなかったが、スーツ姿の水露の彼氏が立っていた。
深緑の眼鏡をかけた細身の青年は、今流行りの草食系男子にしか見えない。今風の若者の身なりだが、落ち着いた雰囲気の好青年っていう印象だ。
「仕事早めに切り上げてきたんだ」
「いいのかよそれ。用事があるわけじゃないんだろ?」
「僕の勘が告げててね。――今宵、何かが起こると。仕事は大丈夫だよ、僕の優秀な後輩がいるからね」
「何かってなんだよ」
「僕にもそれはわからない。それより、急がないとだろう」
「おい真冬! お前行き先わかってんのか!?」
自分より先に家を出ていった真冬を慌てて追いかける。隼政からしたら意外だった。まさか真冬まで一緒だとは夢にも思わないだろう。しかも不穏な発言まで飛び出して、正直もう何がどうなってるのか理解不能である。
――早く。一刻でも早くいかないと……!
隼政の額に汗が滲む。外気の冷たさが肌に刺さる。でも足を止めるわけにはいかない――隣で走る真冬は涼しい顔で走っている。先程まで仕事をして、帰ってきた人間とは思えない。
――意味わかんねぇ!!