神隠しの杜

 世にも怪しい噂というタイトルのやたら厚い本を読んでいた隼政が、顔を上げずにこう言った。



「あゆっち、面白い噂あるよ」



“あゆっち”は木暮歩の愛称だ。隼政だけがこれで呼んでいて、雪芭は普通に呼び捨てである。



 歩はオカルトの話にさほど興味はなく、いつも雪芭だけが目を輝かせて聞いていた。



「俺はべつにいいんだけど……」



 木暮歩と言う人間はこのメンバーの中で一番まともで、個性がない。そもそも自分がまともでなければ止める人がいないのだが。



「聞きたい。歩はいいから、聞かせてよ」

「さすがゆっきー。いいぜ話してやる」



 意気揚々と話始めた隼政に軽くため息をつき、歩は手元にある家庭菜園の本を続きからまた読み始める。次にどんな野菜を育てようか考えながら。二人からしたら地味な趣味らしいが、気にしたことは一度もない。

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