生前の君に捧ぐ、最初で最後の物語
「太一郎さん。良かった。目を覚まされたのですね」

私が次に目を覚ました時には、私の背中と腹、そして頭にも。柔らかいものの感触があった。
視界に最初に入った佐久子は目を赤くしていた。まさか泣いたのだろうか。

「此処は診療所になります。人を呼んでこちらまで運んでいただきましたの。
ひどい高熱でしたわ。具合はいかがですか? 先ほどより辛くないですか?」
「平気です。それよりも、ごめんなさい」

佐久子を泣かせてしまっただけでなく、迷惑までもをかけた。
だから詫びて見せれば佐久子は首を横に振る。悪いのは自分の方だ、と。

「わらわのせいで体調を崩されて。その上、
書き上げてわらわに見せたと同時に本当に死んでしまうんじゃないかって、思いました」
「貴女のせいではありません。私の不養生がいけないのです。どうか自身を責めないでください」

佐久子が更に何かを言おうとしたから、私は止めた。
その結果、ほんのわずかながら私と佐久子の間には沈黙が流れた。
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