生前の君に捧ぐ、最初で最後の物語
恋愛というものは難しい。どちらの心も分からないといけないのだ。
だが書き出してしまったからには、この二人を捨てていく訳には行かない。佐久子の為にも。

「太一郎、まだ書いているのか。幾らやっても無理なんだと分からないのか」

再び書く事へ集中をしだした私に、周囲の目は冷ややかであった。
芽が出ないと分かっていながら小説を書き続けている事への呆れ、そして怒り。
この道を諦め、家業である書物屋に専念をしたらどうなのか。

誰も私に温かい言葉をかけるものなどいなかった。だが私はそれを理解している。
周りに賛成をする者はいないのだと。それでも諦めずに書き続けた結果が、あの時の私なのだが。
これは自分を売り込む為のものではない。一人の人間に読ませる為のものだ。
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