身勝手な恋情【完結】
そしてその美しさは、安っぽい、色気や妖艶とはまるで違う。甘い砂糖菓子のような、ふわふわした声のその彼女は、まるで息子を心配する母親のような顔で、優しく穏やかに微笑んでいる。
だから周囲も何かわけありに見える、特にそんな美しい二人にわざとらしい視線を向けたりなんかしない。野暮だとわかっているから。
「蓮、会いたかったの。本当に……」
蓮さんの、かたくなによそを向いていた顔が、ブリキのおもちゃみたいに、ぎこちなく動き始める。
やだ……
グラスを持っている手が震えた。
血の気が引いて、指先は凍えるほど冷たくなった。
「蓮……」