身勝手な恋情【完結】
あと数秒遅かったら
この場の空気が変わらなかったら
きっと私は大声を上げていた。
そして蓮さんにとんでもない恥をかかせてしまっていたに違いない。
蓮さん……!
感情が間違った方向へ爆発しそうになったその瞬間
「――お待たせしました」
決して大きくはないのだけれど、凛と響く低い男の人の声に、ハッと我を取り戻したのは私だけではなくて。
声のしたほうをゆっくり振り返ると、舞台へと続くドアを開け、一人の男の人が立っていた。
「――立花さん」
会場の誰かの呼びかけに、『彼』はまるで返事をするみたいにほんの少しだけ目を細める。