身勝手な恋情【完結】
あれが……あれが、立花薫……?
彼を目にした瞬間、それまで蓮さんたちに向けられていた粟立つ感情が、ゆっくりと撫でつけられるような感覚を覚えた。
年は――
よくわからない。
確か以前読んだ本によれば、彼は私の父親世代――
いや実際もっと上の世代だったような気がするんだけれど……見た目ではまったく年齢がよくわからない。
それは若作りしているとか、そういうことではなくて、彼という存在が『老い』だとか『時間』からも支配されない、圧倒的な存在感を放っているように感じたからだ。
『立花薫。彼の作ったものは華やかで美しくて機能的で――
何物にも縛られない。
いつも孤独だ。
誰にもとらわれない自由を持つということは、彼は孤独ということだ』
彼を見てごく自然に、何かの評論でそう言われていたことを思い出していた。