身勝手な恋情【完結】
「元彼の話」
おバカな私に説明してくれる気分になったのか、蓮さんがぽつりとつぶやく。
「元彼……あ……」
「今でも会ってるんだろ。あいつ、そんなこと言ってたけど」
「ええー??? 会ってないですよ。別れてからあの、会社の下で一度待ち伏せされたことはあったけど……あと、たまたまいきつけのバーで遭遇したことはありますけど、偶然で……」
「――」
「本当に、偶然です。っていうか、和明が私のところに顔を出したのも、きっとただのきまぐれですよ。あの人本当に自分勝手だから……」
彼と別れる理由になった事件を思い出して、気が重くなった。
いや、気分だけじゃない。
口も重くなって、つい口ごもってしまう。
さっきは痛いくらいに自分の心臓の音を聞いたような気がするけれど
今は壁時計の音しか聞こえなくなった。