身勝手な恋情【完結】
episode08・どこかの誰かの昔話
どこかの誰かの昔話……って。
首をひねる私。
蓮さんは冗談めかした表情で、戸惑う私の手を取りベッドに並んで腰を下ろす。
「――とあるところにごく普通の、引っ込み思案な少年がいました」
引っ込み思案な少年……?
いったい誰のことだろう。とりあえず蓮さんのことではないよね。
蓮さんって絶対子供のころから偉そうだったと思うし……。
てっきり蓮さんの昔話を聞かせてもらえるのだと思っていた私、一瞬拍子抜けしてしまった。
「――少年は幼いころ、母親と死に別れました。母親が大好きだった少年は、ショックで学校にも行けなくなり、部屋で本ばかり読んでいました。少年の父親はそんな少年を不憫に思ったのか、ある日美しい女性を連れてきました……。
彼女は父親の会社で働く女性でした。美しく優しい彼女と過ごすようになって、少年は次第に明るくなり、外に出るようにもなりました。
そして少年は、当然のごとく、次第にその美しい人に恋心を抱くようになりました」