身勝手な恋情【完結】
「――ただの昔話よ。ねえ、覚えてる?」
「そりゃ、覚えてるわよ。サッカー部の……伊東君」
「じゃあ、なぜ別れたかって覚えてる?」
「なぜって……」
和美の横に並んで立って、ぼんやりと考える。
「そういえば……なんだったか覚えてない」
一応きっかけらしいきっかけはあったと思うんだけど、正直覚えていない。
生まれて初めての彼氏。舞い上がったに違いない。
だからその時の状況――
例えば告白された時、教室のどの位置に立っていたとか、そんなくだらないことはよく覚えているのに、別れた理由を覚えてないなんて薄情なんだろうか……。
「今思えばものすごくどうでもいいことだったのかも……」
「そう、そうなのよ。たとえば私服がたまらなくダサいとか……勉強するときだけかけてる眼鏡が全然似合ってなかった、とか、そんなどうでもいいことだったと思うのよね。っていうか――ああ、缶コーヒーって冷めると途端に不味くなるわね」