身勝手な恋情【完結】
まぁ、忙しいなんて嘘をついてまで私をここに連れて来てくれた草介さんに、これ以上つっかかるわけにもいかない。
着ていたダウンを脱いで、丁寧に頭を下げる。
彼はにっこりと笑うだけで、それ以上何も言わず、
「さて、薫さん、ありがとうございました!」
と、カウンターの中の立花さんを振り返った。
「なかなか楽しかったよ。一度やってみたかったんだ」
彼はくすりと笑って、手のひらをカウンターに滑らせながら表に出てくる。
「十代のころからここでコーヒーを飲んでたんだからね」
その、愛おしむような眼差しに、なんだかとても色気を感じてしまった。
「立花さん、たしか大学から留学しているんですよね?」
「そうだよ」
「日本にいたころはどんな学生だったんですか?」
「ごく普通の男子高校生だった」