身勝手な恋情【完結】
私と立花さんは、着替えてきた草介さんに勧められるがままカウンターに座り、コーヒーを頂く。
「普通って……信じられません」
今世界に羽ばたくほどの人が、普通の男子高校生だったはずがない。
きっと特別な男の子だったはずだ。
たとえば、将来を感じさせるようなエピソードがあったりね。
そんなことを熱心に語ると、立花さんはまた穏やかに微笑んで首を横に振った。
「ずっと父親と折り合いが悪くて……それでも将来の夢と……そして好きな女の子のことで頭がいっぱいで……未来は明るい、必ず夢は叶うって、信じていた」
「――普通の男子高校生ですね」
「だろう? 僕は特別な人なんていないって、思ってるよ」
「いない?」
「人は誰でも、大なり小なりの問題を抱えていて、あちこちぶつかりながら、それでも前へと進んでいく」
そう語る彼の横顔はどこか懐かしそうで……
人の百倍努力してなお、特別じゃないと言い切るこの人は、本当に謙虚ですごい人なんだと身につまされる。