身勝手な恋情【完結】
誰が見ているわけではないけれど、背筋を伸ばし、はっきりとそう口にした。
『じゃあ――』
「待ってください。私も夕食の準備があるので、お会いするのはそれからです」
別に夕食の準備なんてどうでもよかったけど、彼女に会うことの心構えをするには、時間が必要だった。
壁にかかっているヤコブ・イェンセンの時計を見あげる。
「8時にブルーヘブンホテルのロビーで」
『――わかったわ』
「では、失礼します」
その、通話を切る一瞬、携帯の向こうの彼女が笑ったような気がした。
気のせいかもしれないけれど、そう思った。