身勝手な恋情【完結】
携帯を切った後、超特急でシャワーを浴び、身支度を整える。
メイクはいつもより念入りに。着ていくのはお気に入りのツイードのワンピース。ストッキングだって伝染していないか何度も確かめた。
コートは上品な千鳥格子だ。
(立花さんとノアで会ったあの日にバーゲンで買ったやつね)
姿見の前で自分を映し、悪くないじゃないと唇の両端を持ち上げてはみたけれど、その笑顔はかなり、ひきつっていた。
だけど、それも当然だと思う。
そもそも、わざとピアスを落として、私の携帯に直接電話をかけてきて、持って来いと言い放ったうえ、なおかつ自分の都合のいい時間と場所に呼び出そうとする、その神経……。
本当に信じられない。
きっと彼女は、人に命令することになれた女性なんだろう。
そしてそれを周囲も許してきた――
許されるタイプの、ほんの一握りの女性……。
それに引き合え私ったら、平々凡々の、どこにでもいる庶民代表だ。
だけど――
「だけど、蓮さんを思う気持ちは誰にも負けませんから……」
自分に強く言い聞かせた。