身勝手な恋情【完結】
タクシーでブルーヘブンホテルまで行き、エントランスからロビーへと入る。
時間は15分前だったけど、知寿さんは来ていないと私は決めつけていた。
けれど――
彼女はロビーのカフェでコーヒーを飲んでいた私の前に、五分前に姿を現した。
豪華なロングの毛皮のコートに、ピンヒールのパンプス。
ゴージャスな美女の出現に、誰もがほんの一瞬目を奪われる。
なるほど、彼女も戦闘態勢らしい。
「お待たせ」
「いえ」
そして知寿さんは私の前に座り、やってきたウェイターに声を掛けた後、にっこりと微笑んだ。
毛皮を脱ぐと、上品な黒のタートルネックのセーターと、マーメイドラインのスカート。緩く巻いた黒髪。清楚な薄化粧。
手を抜いたように見せかけて、その実、一寸の隙もない美しい人。
私が少々着飾ったところで、スタートラインが違うという雰囲気だ。