身勝手な恋情【完結】
「じゃあ、彼のことを……昔はどう思っていたんですか? からかってたの……?」
「いいえ。からかったりなんかしない。15年前は、蓮を愛していたから別れたの」
「え……?」
愛していた?
「じゃあどうして家を追い出すなんて……しかもれっ、レイプ、されたみたいなこと言って……」
一瞬ホテルのティールームだということを忘れて声が大きくなりそうで。
慌ててひそめたけれど、知寿さんには全く動揺の色はない。
「あのまま手と手を取り合って逃げることは現実不可能だったから……どうせなら、うんと傷つけて彼の心に残り続けようって思ったの」
「――」
なんてひとなんだろう。まったくもって理解不能なんだけど……。
絶句する私。
「それが、あなたの愛、なの……?」
「ええ、そうよ。きれいなものだけが愛じゃない。そして時を重ねれば愛だって色褪せる。だったら私は実よりもその一瞬の花を選ぶわ」
彼女の堂々とした言葉に、椅子に座っているのにめまいがした。