身勝手な恋情【完結】

蓮さんにとって『たった一人』の女だ。

この人の前では確かに、どんな女性も確かに色あせて見えただろう――


そう、私でさえ……きっと……


私を唐突に襲ったのは、どうしようもない虚無感だった。


真水に墨汁を落とすと、それは透明に見えてももう真水ではないように、私の中の蓮さんへの気持ちが、その質を変えてしまったような気がした。



急に威勢をなくした私を見て、知寿さんは一瞬不思議そうな表情をしたけれど――


「蓮はとても繊細。その繊細さが彼の才能に直結してる。そして彼は見事花開いたわ。だからあれでいいの。そしてこれからも……きっともっと、研ぎ澄まされる」

「――」

「あなたも考えてみて。彼に本当に自分が必要かどうかって。蓮が望まないことを押しつけて、彼を苦しめていないかしら」


スッと立ち上がると、ほんの少し前かがみになってささやいた。



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