身勝手な恋情【完結】
ベッドの中でお母さんは私の仕事の心配ばかりしている。
自分だって死にかけたのに……。
あの日、ブルーヘブンホテルにいた私にかかってきた電話は、兄からのものだった。
母が脳出血で倒れ、たった今、手術をしているらしい、という連絡。
それを聞いて私まで倒れそうになったけれど、倒れていられるわけもなく
実家に帰るための新幹線はあの日ギリギリで――
だから私は、蓮さんに「母が倒れたので」とだけ告げて、荷物をまとめ飛び出すしかなかったんだ。
蓮さんはそんな私を黙って見送るだけで。
だけど彼が、ドアを閉めるその瞬間まで、捨てられた子犬みたいな顔をしているように見えて――
その表情が妙に胸をついて余計話が出来ないままだったのが、心残りだったのだけれど。
知寿さんとの話し合いですっかり消耗してしまった私は、蓮さんと向き合える自信がなくなっていた。