身勝手な恋情【完結】
そう。逃げたのは私のほうだった。
何か言いたそうだった蓮さんを、置いて、私は逃げたんだ。
新幹線の中でも蓮さんのことが気になっていたけれど、深夜に地元の救急病院についてから、明け方近くまでの手術は八時間に及び、それからは意識して蓮さんのことを考えないようにした。
結局手術は無事に終わっても、お母さんは数日目覚めず、私がずっと側にいることになった。
家族が病気、しかも家庭の中心的存在だった明るい母が目を覚まさないということは、かなりのダメージだったけど、なんとか持ち前の体力で目を覚まし、家族全員で泣いて喜んだ。
ただ、喜んでばかりもいられず、お母さんの右手は少ししびれが残るという結果になってしまって……。
父は勤めていた会社を定年退職した後、そのまま再就職をして毎日働いているし兄も姉も家庭があって、しかも地元から離れている。
母を除く三人で話し合って、私が残ることに決めた。
他に選択肢はないと、私は思っていた。
そしてそれは、蓮さんと距離を取るってことになることも――
十分わかっていた。