もう一度
呼ばれて振り返ると階段を下りてくる海斗がいた

「整形外科、行くぞ」

「はい」

それだけを言い置いてERから消えていく海斗の後を、飯田にカルテを押し付けたしるふが追う

その背中をやっぱり型にはまったようにしっくりくると思いながら見送った


賑わいを見せる黒崎病院の昼の稼業中

その中を肩を並べて歩く

去年は、心持早歩きでついて行っていた背中も今は歩調を合わせてくれている

海斗が少し丸くなった証拠だろうか

ここ一週間芳川が海斗のそばにいてあまり二人になることがなかった

話す内容は、決まって仕事のこと

だから海斗も邪険にはしないし、しるふだって何も言わない

医者として2年目に過ぎない自分が、口を出す隙は、ない

忘れかけていた、吹っ切りかけていた海斗との差に

久々にため息が漏れた

恋した乙女心

自分の知らない時間を過ごした人が、海斗のそばにいることが

面白いとは思うわけない

ましてやそれが自分より医者としての経験も豊富で

アメリカ帰りの美人女医となればなおさらに
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