もう一度
「こないだの小学生」

反射的に顔を上げると漆黒の静かな瞳が見下ろしていた

「…引きずってるな」

確信を得た様に海斗が再び歩を進める

「…ごめんなさい」

助けられなかった患者への思いをうまく断ち切れないのは、自分の欠点だ

助けられない命があることを、

患者は待ってくれないことを、

時間は巻き戻せないことを、

良く知っているのに

「謝るな、焦るな、溜めこむな」

念仏のようにテンポよく紡がれる言葉に、ぐうの音も出ない

追っていた海斗の足が止まる

ふと上を向くと

「気晴らし、行くか」

見下ろしてくれる瞳は、温かなもので

「うん」

流れた空気は、その瞬間は恋人同士のそれだった

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