もう一度
医局に戻ってパソコンと向き合っていると

「う?」

コツン、と軽く上から抑えられる感じ

この感覚は、

半ば確信を持ちつつ上を見るといいタイミングで白いカルテがどけられる

現れたのは、もちろん

「黒崎先生」

見下ろす漆黒の瞳だ

「どうしたんですか」

無言で隣の席に腰かける海斗を追う

「今日、化粧、濃い」

「失礼ー。女の子の化粧にダメだしするとか、もっと女心を」

「また、嫌な夢でも見たのか」

しるふの言葉を遮って尋ねてくる海斗の瞳は、すべてを見透かしているように思えた

「…。秋は、やっぱり苦手です」

濁した言葉は、けれど的確に言いたいことを伝えてくれる

「焦るな、溜めこむな」

「はい」

「あと、」

無理するな

そう言って再び置かれたのは、大きな優しい手でその下でそっと目を伏せた


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