もう一度
「そうだ、黒崎君」

医局長からロッカーの鍵を受け取った芳川が、ヒールの音を鳴らして近寄ってきた

「叔父様、こないだ見かけたんだけど元気そうだったわよ」

「ああ、そう」

一度芳川に視線を投げた海斗の抑揚のない返事

「相変わらず仲悪いのね」

「別に仲が悪いわけじゃない。用がないから話さないだけだ」

それは避けてるって言うんじゃないかな、と小さく眉を寄せて天井を見上げたしるふの耳に

芳川の笑い声が届く

「まあ、いいわ。それより明日からよろしく」

あなたと一緒に仕事できるなんて楽しみね

そう言った芳川の声が、なぜがとても耳に残った


次の日から本格的に医局に加わった芳川

さすがアメリカ帰りのエリート

指示も的確だし、何より処置に絶対的な自信を持っているのが分かる

そして海斗の隣というポジション

そこに気がつくと彼女がいる

一年前からそこは自分だけの特等席だったはずなのに

あの横顔を見上げるのは、自分だけだったはずなのに

少しだけ雰囲気を変えた医局に、やりにくいと感じてしまった
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