もう一度
「はあ」

思わず漏れたため息

「なーに、そのため息は」

ナースステーションの中から飯田莉彩が近寄ってくる

「ん、なんでもない」

「そうは見えないけどね。うちのムードメーカー立花しるふが元気ないってみんなで話してたの」

そのみんな、の中に海斗はいるのだろうか

「…いや、いるわけないか」

言ってからかなりへこむ

「何よ、独りで落ち込むのやめなさいよ」

良いことないんだから

飯田の的確な指摘に、

「わかってます。でも別に落ち込んでるわけじゃないんだ」

そう、ただ公私混合しているだけ

それとこないだ久々に嫌な夢をみたせい

ずいぶんと引きずっているのは、その後に小学生の女の子を助けられなかったからだろうか

「どうせ芳川先生と黒崎先生のことでしょ」

飯田が頬杖を突いて見上げてくる

瞳は容赦がない

「なんでわかるかな」

「わかりやすすぎるのよ」

ふう、と一度息をついて

「当たり前のことのはずなんだけど、考えたこともなくてさ」

海斗には自分の知らない時間があって

そこには知らない人がいたはずで

彼の隣に並べていたのは、当たり前じゃなかったことを
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