Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ケインがジョーンの段下まで近づくと、「失礼します」と声を掛けてから頭を下げた。

「顔色が優れません。何か言われましたか?」

 小声でケインがジョーンに囁いた。ダグラスに脅迫されたと、心配しているのだろうか。

「何も聞いてないわ。つまらない話をしようとしたから退出させたの」

 ケインがジョーンの顔を見つめて短い返事をした。接見の間に入ってから、ケインに見つめてもらえた。ジョーンは嬉しかった。

 納得したケインが、左側に下がった。背筋を伸ばすと、中途半端な場所に立っているウイリアムを呼び寄せた。

 ウイリアムが小走りでケインに近寄ると、隣に立った。ケインの立ち方を横目で確認しながら、真似して立とうとする姿が可愛らしかった。

 エレノアがコップの七分目まで水を入れると、お盆に載せて水を運んできた。段の下でお辞儀をすると、段の上に上がって、ジョーンに水を差し出した。

(ケインが、エレノアたちに水を入れるよう言ってくれたのね)

 すぐに視線を逸らしたのは、顔色が悪いと気がついてくれたからだ。何か後ろめたい気持ちがあるのではないかと不安になったのが恥ずかしく思えた。
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