Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「今回は青いドレスにしたのよ。似合わないかしら?」

「王妃陛下は何を着ても似合います」

 ジョーンはケインの返事を聞くと、肩をがっくりと落とした。

(そういう答えを求めているんじゃないわ)

 ジョーンは珍しく青のドレスを選んで着たというのに、男は鈍感だ。ジョーンは鏡の中にいるもう一人のジョーンの顔が、不満そうにしているのをじっと見つめた。

        
「ケイン、私は昨年に命を狙われた件の報告を聞いてないわ」

 ジョーンは六フィート離れた場所で足を止めていたケインを見た。

「申し訳ありません。これといって報告する内容はなかったものですから」

 ケインが深々と頭を下げた。ウイリアムも一緒になってお辞儀をしていた。

「犯人に直結する情報がないのね」

 ケインが短い返事をする。ウイリアムがケインの後ろから顔を出すと、ジョーンを見上げてきた。

 ジョーンはケインからウイリアムに視線を動かすと、何か言いたそうな表情をしている少年の言葉を待った。

「犯人は、レティア様ではないのですか?」

「ウイリアム、確証もない発言は控えなさい」

 ケインが、ウイリアムに振り返ると厳しい口調になる。
< 110 / 266 >

この作品をシェア

pagetop