Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ダグラス一人で何か事を起こされても困る。

 ジョーンへの忠誠は、ケインのほうが上だ。愛情も。ダグラスに出し抜かれるなど、もうされたくない。

 できるだけダグラスの行動は知っておきたいという気持ちもケインにはあった。

「ケイン殿、外は雨が酷いですよ」

 ダグラスが笑顔で話しかけてきた。

 ケインもダグラスの前で足を止めた。玄関ホールには、ケインの他に執事のエドワードとダグラス。ダグラスの従者が一人いて、合計四人だった。

 二〇〇平方フィートの玄関ホールに男四人は、少しむさ苦しい。

 ケインはダグラスに背を向けると、応接間に向かった。

「少し散歩をしませんか?」

 ダグラスが擦れた声をあげた。ケインが振り返ると、頭を拭き終ったと思われるダグラスが見つめていた。

 ダグラスの髪はすっかり色が抜けて、白髪になっていた。少し見ないうちにダグラスの顔の皺も深くなった気がした。

 それでも身体から漂うオーラは若々しく、年老いた雰囲気は微塵も感じさせなかった。

「外は雨です」

 ケインは再び応接間に向かおうと、足を踏み出した。

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