Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ウイリアムを引っ張り出したケインがジョーンの存在に気づいた。

 三十フィート離れた場所から、ケインがお辞儀をした。ウイリアムも雪の中に落ちた剣を拾い、鞘の中にしまうと、頭を下げた。

 ケインがウイリアムに何か話しかけた。

 話が終わると、ウイリアムがまたジョーンにお辞儀をしてから、歩き出した。ジョーンに背を向けて、どんどんと離れていった。

 ウイリアムからケインに視線を動かすと、ケインが笑みを送ってきた。ケインがウイリアムの小さくなっていく背中を確認してから、ジョーンに近づいてきた。

 ケインの高い鼻の頭には、大きな粒の汗が浮いていた。額からも汗が今にも流れ落ちてしまいそうだった。

「陛下お一人でここに来たのですか?」

 ケインがジョーンの前で足を止めると、口を開いた。

 周りに人がいないのを、ケインが不思議がっていた。ジョーンの背後に視線を動かしたり、左右を確認したり。

「木の向こう側にエレノアとローラがいます」

 ジョーンはエレノアたちがいる方向に顔を向けた。沢山の木々が邪魔をして、エレノアたちの姿が見えなかった。
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