Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 しかし、ジェイムズⅠ世がハイランド貴族との関係を壊してしまった。

ハイランド貴族を騙し討ちにして投獄、殺害した。ロバートⅠ世から続く王族が、せっかく築いてきた信用を、たった一回の行いでハイランド貴族を敵に回してしまったのだ。

 ダグラスはハイランド貴族の怒りをいち早く察知し、王になるために利用しようと手を組んだのだろう。

すぐに戦へと転じなかったのは、ダグラスが裏で糸を操っていたに違いない。

 ケインにジェイムズⅠ世の暗殺話を振りかけながら、その反対でハイランドとも手を繋いでいた。

(ダグラスには、すっかり騙されてしまった)

 ケインはダグラスの心の底まで見抜けなかった己自身が憎かった。情けなかった。

「ダグラスは、ハイランド貴族に匿ってもらい、反乱の機を窺っているのではないかと」

 ゼクスが言い難そうに口を開いた。書斎を一周し終わったケインは、足を止めた。ケインの隣にいるゼクスも足を止めた。

「同感だよ。襲撃から三年。動き出すなら、そろそろだと思う」

 ケインは胸の中で「負けるものか」と呟いた。ダグラスだけは許さない。ジョーンに刃を向けた、あの光景を忘れない。

 この手で、ダグラスを殺したいくらいだった。もし戦になったら、絶対にケインの手でダグラスの首を斬ってやる。
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