Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ケインは書斎を出ると、廊下を歩き出した。広く長い廊下をケインとゼクスは並んで歩いた。吐く息は白く、せっかく温まった身体が冷えてしまいそうだった。

「ゼクス、久々に手合わせしないか? 身体を動かしたい」

「ケイン殿の身体が鈍っているなら、俺にも勝ち目はあるかな?」

 ゼクスが右肩を回しながら、嬉しそうに顔を歪めた。

 スコットランドの騎士の中では、ゼクスは強い。初めて手合わせをしたのは、騎士の武術大会だった。身体を動かすには、とても良い相手だ。

「鈍っていると? 私は負けず嫌いだから、現役の騎士にだって負けない自信はある」

(ダグラスに勝つまで、衰えるわけにはいかないんだ)

 ケインとゼクスは、互いに笑い合った。強い相手と戦えるのは嬉しい。ケインは自然と大広間に向かう足が速くなった。
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