Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
　青い外套に身を包んでいるケインは、ゆっくりと瞼を開けるとジョーンから離れた。

人目も気にせず、熱いキスを交わした。しばらく会えないと、昨晩は激しく抱き合ったが、それでもケインには足りない気がした。

　玄関ホールの隅で、遠慮がちにゼクスとお腹の大きいマーガレットもお別れの挨拶をしていた。この二人も、離れて生活するのは初めてだろう。

　ゼクスがマーガレットと離れた。ケインの隣に立つなり、ジョーンも一歩後ろに下がった。名残惜しそうにケインも、ジョーンの手を離した。

　ジョーンの後ろには大勢の執事とメイドが立っている。先頭では、エレノアとローラも悲しげな顔でケインたちを眺めていた。

「ケイン、絶対に勝つのよ」

　ジョーンがケインに笑顔を送った。ケインも微笑んで頷く。

　ケインはゼクスと目を合わせると、ジョーンの隣に立っている幼王ジェイムズⅡ世を見つめた。

十歳の幼いジェイムズが、賢い目でケインとゼクスをまっすぐに見上げていた。
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