Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「さて、どうやってロイの耳に入れるか、だ」

 ケインは五人の顔を見た。レッド家のジェームズ・ダグラスとジョージ・ダグラスが首を傾げた。

 エドマンドは腕を組む。チャールズが眉の間に皺を寄せて、椅子の背もたれに寄りかかった。

 ゼクスは顎髭を触りながら、ケインに身体を傾けた。

「ロイの愛人を使おう。妻のマーガレットと愛人が親しい仲だ。その繋がりを利用して、俺がロイの耳に情報を入れる」

 ゼクスの提案にケインは頷いた。

 ロイには愛人がいる。レティアを亡くしてから、二年後に貴族の娘を妻に娶っていた。が、夫婦仲は悪かったようだ。結婚直後から、愛人の影が見え隠れし始めた。

 ロイの愛人は、どれもレティア似の女だ。まだレティアを忘れられないのだろう。未練のある男は、ケインはあまり好きじゃない。前を見ようとしない証拠だ。

「エドマンドは、ロイの監視をしてくれ。ブラック家のジェームズ・ダグラスとどこで接触するか皆目わからない。接触次第、報告が欲しい」

 エドマンドが短い返事をした。

「ウイリアムの逃走を、六月十六日にする。ダグラス軍との戦は翌十七日なるだろう」

 ケインは顔を上げて、はっきりと告げた。五人の目つきが変わり、深く頷く。

「軍の待機場所は、どうしますか?」

 レッド家のジェームズ・ダグラスが質問する。

「二つに分けよう。最初に少人数でダグラス城に向かうんだ。あくまでウイリアムの追跡部隊として。残りの部隊は近くの町で待機だ。午前六時に本隊と合流して、ダグラス軍を叩く。ダグラス軍には午前六時までにウイリアムを引き渡すように伝えておこう」

 ゼクスが答えた。チャールズが席を立つと、棚の上に置いてあった地図を持ってきて、テーブルの上に広げた。


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