Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 午後四時。ジョーンは、夫人たちの会話が途切れると、輪から抜け出した。どの夫人も、娘や息子の自慢話から始まり、将来の結婚相手について、理想を語っていた。

 近くに来た給仕からウイスキーを貰うと、壁際に立って、喉を潤した。少し離れた場所に立っていたケインが近づいてきて、ジョーンの隣に立った。

 大広間の中央では、若い男女が音楽に合わせてダンスを楽しんでいる。笑顔で口を動かしているのが見えた。

 ジョーンはグラスに入っているウイスキーを飲み終わると、すぐに新しいのを手に取った。右隣には、ケインが無言で立っていた。

 若い女性たちが輪になって、談笑しているのが目に入った。

 頬が赤くなり、ちょっと口を開けば、甲高い笑い声に変化した。互いの話をして、ダンスの相手はどんな人か見定めているのだろう。

 ジョーンにもあんな時代があったのを思い出した。参加している男性たちについて、噂話や見た目から想像できる性格を話しては、笑い合っていた気がする。

 男性たちもきっと同じように、女性たちの噂話をしては笑っているのかもしれない。

 隣に立っていたケインを横目で盗み見た。無表情で、ジョーンの周りにいる人々に目を向けていた。
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